”一般市民”が起こした、国境を越えるムーブメント

第二次世界大戦中、ヨーロッパではナチスにより多くの人が迫害に遭いました。
しかしながら市民の協力により、そこに住むユダヤ人のほとんどが虐殺から逃れられた国があります。

それが、デンマークです。

一体、どういうことでしょうか?
第二次世界大戦、デンマークはどのような立ち位置にいたのでしょうか。

日本の学校の教科書では、デンマークについてほとんど触れられることがないので、おそらくあまり知られていない話。
今回は、第二次世界大戦から現在のロシア・ウクライナ戦争に至るまで、デンマークの方々がどのように戦争と向き合ってきたかをテーマに記事を書きたいと思います。

第二次世界大戦、ドイツ支配下のデンマーク

まずはデンマークの場所のおさらい。デンマークはドイツと地続きの半島と複数の島々から成る国。

1939年にドイツがポーランドを侵攻することで始まった第二次世界大戦ですが、ドイツは1940年にデンマークを侵攻、そこから2年足らずでデンマークをはじめノルウェー、オランダ、ベルギー、北フランスなど多くの国々を支配下に置くことになります。
(図:オレンジで下線を引いた国がドイツの支配地域)

第二次世界大戦の開始時、デンマークはどちらにも味方せず中立の立場を取っていました。
そのため、ドイツと敵対関係にあった訳ではありません。しかし、ドイツがデンマーク攻撃に踏み切ったのは、敵国イギリスに対抗するため近隣の国を味方で固めておく必要があったからです。
デンマーク政府は、ドイツから攻撃を受けはじめてわずか半日も経たずに降伏”を宣言します。

激しい抵抗はせず、国民の生活と命を守るためにドイツと交渉を行うことを選んだデンマークは、降伏したとはいえガチガチに支配されることはなく、デンマーク政府の自治が認められ間接的に統治されていました。
そのため、はじめの頃は国民はかつての生活と大きく変わらない生活を続けることができていたのです。

しかし、次第に長引く支配に不満も高まり、各地で抵抗運動が行われるようになります。
するとドイツはデンマークに対しても弾圧を強めていき、1943年、ついにユダヤ人移送計画はデンマークにも及ぶことになります。

デンマークでの全国的なユダヤ人救出活動

当時、ドイツと国境を接するデンマークには、8000人ほどのユダヤ人が住んでいました。
デンマークからユダヤ人が移送されるという計画が漏れ渡るとすぐに、ユダヤ人救出計画が持ち上がります。一般市民たちは、ユダヤ人を海路で対岸のスウェーデンに避難させるべく、漁師の船にユダヤ人を乗せてスウェーデンまで送りとどけるということを行いました。

結果的に、8000人のうち約7200人、つまり9割のユダヤ人が数週間の間にスウェーデンに逃れることができ、命が救われたのです。

助けているのがドイツ側に見つかれば、殺される可能性もあるような状況。
それでも人が困窮しているのを”ひとごと”と思わずに、進んで手を差し伸べるデンマーク人。デンマークで生活していると、現代の日常生活でもそれを感じられる場面があり、周りの人を助けようとする強い心は、今も昔も変わりません。

現代:ロシア-ウクライナ戦争とデンマーク

さて、時代は変わり、現代へ。悲しいことに、今も世界では戦争が起きています。
デンマークをはじめとするヨーロッパの国々は、また違う形で、今度はウクライナの人々を助けています。

地図上の”家”のマークは、戦争から逃れてきたウクライナの方々を積極的に受け入れ、安全な住まいを提供している「エコビレッジ」の場所です。

日本ではまだ馴染みのないエコビレッジ。
エコビレッジを一言で表すのは難しいですが、エコビレッジに住み始めて1か月のわたしなりに思いついた言葉はこちら。
人と自然とがつながりを取り戻し、また、人と人がより結び付き合いながら暮らす現代のコミュニティ

”現代の”という言葉を入れたのは、地元の人・近所の人でできたコミュニティではなく、同じような目的・意志を持った人が世界中から集まりつくり上げるコミュニティという点が、昔の農村社会と異なるからです。

話は戻り、ヨーロッパにはGEN Europeという、エコビレッジ同士の交流を図る大きな団体があります。ロシア・ウクライナ戦争が始まった翌日、GEN Europeは、ヨーロッパ中のエコビレッジに戦争から逃れる人を積極的に受け入れるよう呼びかけ、受け入れ可能な”エコビレッジマップ”を作成しました。(Green Road Project)

これまでに、3000人ものウクライナの方々がエコビレッジで短期または長期滞在を経験しています。
デンマークには、約30のエコビレッジがあり、私が訪問したエコビレッジにもウクライナの方が住んでいました。

最後に、コペンハーゲンにある記念碑を紹介して終わりたいと思います。
こちらは、第二次世界大戦中のユダヤ人救援活動を称え、1975年にイスラエルがデンマークにプレゼントしたものです。

皆さんは過去から現代にいたるデンマークの勇気ある行動を知り、何を思い、どのように過ごしたいと思いますか?

<参考文献>
・ドイツ支配下におけるデンマークの歴史(デンマーク国立博物館ホームページ)
https://en.natmus.dk/historical-knowledge/denmark/german-occupation-1940-1945/
・Why 90 Percent of Danish Jews Survived the Holocaust
https://www.history.com/news/wwii-danish-jews-survival-holocaust
・ホロコースト百科事典
https://encyclopedia.ushmm.org/content/ja/article/rescue-in-denmark
・the Green Road Map (GEN Ukraine)
https://genukraine.com.ua/index.php/en/gen-ukraine/green-road-of-ecovillages
・the story of the Green Road project (The World 世界の記事サイト)
https://theworld.org/stories/2023-07-18/green-road-leads-displaced-ukrainians-shelter-ecovillages

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